「天地人」


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NHK:歴史テーマにした番組「天地人」と「ヒストリア」 娯楽性と史実に苦悩

天地人」で主人公の直江兼続を演じる妻夫木聡 時代劇から“新説”“珍説”を紹介するものまで、歴史をテーマにした番組は多彩で、根強い人気を集めている。だが番組が話題になればなるほど制作者は娯楽性と史実のはざまで苦悩する。“公共放送”となるとなおさらのようだ。【栗原俊雄】

 ◇「天地人時代考証担当・学者の指摘に、制作者「英雄らしくない」
 「史実と違う」。大河ドラマ天地人」について、NHKにはこういった批判が寄せられる。例えば上杉謙信阿部寛)の最期。脳出血のため厠(かわや)で倒れ、死去したというのが定説だ。しかしドラマの謙信は、居城である春日山城の岩屋の中で倒れた。

 時代考証を担当する小和田哲男静岡大名誉教授(65)は「史実はこうだ、と説明しましたが、制作者から『英雄らしくない。映像にしにくい』と言われた」と話す。

 またドラマのなかで主人公・直江兼続妻夫木聡)がかぶる「愛」の兜(かぶと)も、実際に使用したかどうかは不明という。さらに番組で登場する真田「幸村」。だが幸村を名乗っていたことを裏付ける同時代の史料はなく、後世の講談などで広まったとされる。小和田さんは「(1次史料で確認されている)信繁にすべきだ」と提案したが、NHK側は「史実は理解しているが、視聴者が混乱する」とより著名な「幸村」を選んだ。

 一方、大坂で深夜の宴会に招かれた大名が、翌朝京都の茶会に出席する設定が「電車も自動車もない当時、その時間では移動できない」という小和田さんの指摘で脚本が書き換えられるなど、改められた場面も少なくない。

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 ◇「学説の均等紹介難しい」−−「ヒストリア」チーフ・プロデューサー
 ドラマの場合、虚構や想像をある程度織り込んでも、視聴者の理解を得ることはできる。だが「我々はフィクションに逃げることができません」というのは、「歴史秘話ヒストリア」の渡辺圭チーフ・プロデューサー(43)だ。

 前身の「その時歴史が動いた」に7年近くかかわるなど、歴史番組ではベテランだが、「織田信長を例にすれば、詳しいファンも、顔さえ見分けがつかない人も見るのがテレビ。両者に楽しんでもらうためのさじかげんが難しい」と打ち明ける。

 また「教養」番組をうたっている以上、視聴者は学説に沿った内容を期待するが、それに応えるのは簡単ではない。NHKでは1分間に読む字数はおおむね300字とされている。「ヒストリア」では、ナレーションがないシーンなどを除けば、45分の番組内で読む原稿は400字詰め原稿用紙で30枚程度。ある事柄に三つの説が存在する場合、すべて均等に紹介することは難しく、結果、「別の説があるのに言及していない、といった批判は日常茶飯事」(渡辺チーフ・プロデューサー)となる

 また、歴史学では信ぴょう性に欠けるとされる史料を、あえて使うことも。限られた1次史料だけで番組を作るのは難しく、また「たとえ2次史料でも、その人物の真実を伝えているものがある」と考えられるものは採用する。「史実は踏まえなければならないが、一方で面白くなければ。歴史学でも歴史小説でもない、我々が作っているのは、歴史番組というジャンル」という。

 確かに、再現シーンなどの映像をみせることができるテレビは、活字メディアとは違った可能性がある。

 小和田さんは「歴史ものの本を読まなくともドラマなら見る、という人もいる。番組がきっかけになって、歴史好きの人たちが増えてほしい」と期待を寄せる。



毎日新聞 2009年7月10日 東京夕刊