小栗 旬&大友啓史監督、日本映画界のトップを走るふたりの新たな挑戦


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映画『ミュージアム』:小栗 旬&大友啓史監督、日本映画界のトップを走るふたりの新たな挑戦


2016/11/07 12:00


人気と実力を兼ね備えた俳優・小栗 旬と『るろうに剣心』シリーズを大ヒットに導いた大友啓史監督が初タッグを組んだ『ミュージアム』。小栗が演じる主人公の沢村は、雨の日だけに発生する連続猟奇殺人事件の関連性と、その犯人である詝カエル男詝を追う捜査一課の刑事。しかし、最後のターゲットが自分の妻子だと判明したことで、次第にカエル男の罠にはまり、身も心も追い詰められていく。衝撃のノンストップ・スリラーエンタテインメントである本作、その撮影秘話をふたりに語ってもらった。

―日本映画界で常に挑戦し続けるおふたりが初タッグを組んだ本作ですが、それまではお互いをどのように意識されていましたか?

大友:初めて会ったのは小栗くんがまだ14歳の時、NHK大河ドラマ『秀吉』の石田三成の子役オーディションです。そのあとNHKエル・ポポラッチがゆく!!』というちょっと変わった1分間ドラマを担当して、その時に遊びにきてもらったりして。それからしばらく経ってしまったんだけど、彼の出演作品を観たり発言を聞いたりしながら、いつか一緒にできたらいいなと思っていたんですね。で、本作の企画をいただいた時に、原作を読んで真っ先に小栗くんの顔が浮かんできて、声をかけさせてもらいました。


小栗:オファーしてくださったのは素直に嬉しかったんですが、原作を読んだら詝ちょっとキツイなこれ・・・詝と(笑)。あらゆることを制限していかないとできる役じゃないなと感じましたし、もし僕の子供がもう少し大きくなっていたらお話をお受けするまでにものすごく時間がかかったかもしれません。


大友:それはそうでしょうね、キッツイもんね、この役は(笑)。いずれにしても小栗くんがこの話を受けてくれて本当に良かった。僕は骨がぶっとい役者が好みなんですけど、彼は演出家の蜷川幸雄さんに厳しく鍛えられていますし、自分でも監督を務めたことがあるぐらい、いろいろ現場経験を積んできています。他のキャスト達に関しても、『ミュージアム』と言う作品に挑むにあたって理想の俳優たちを揃えることができた。ご覧いただく方にも、きっと満足してもらえると思います。


小栗:僕も沢村という役は今までやりたくてもなかなか演じることのなかったキャラクターなので、クランクインを楽しみにしていました。ただ、いざ撮影が始まってみたら想像以上にキツくて・・・。というのも初日から詝母の痛みを知りましょうの刑詝(カエル男により執行される私刑のひとつ)の殺害現場の撮影で、それがものすごく陰惨な状況だったうえに、リアルなのでどんどん凹んでいくんですよ(笑)。


大友:あの現場見たとあとは詝弁当食えない詝って言ってたよね(笑)。

小栗:はい(笑)。その時にこれは覚悟を決めてやるしかないと強く感じました。初日は捜査一課のチームでの撮影だったんですけど、監督は僕らが現場に入るまでに毎回細かいところまで手を抜かずに作り込んでくださっていて。例えばエキストラの方や捜査一課以外の刑事役の方達にもしっかりと演出をしてくださるので、世界観に入りやすかったです。


―監督は本作で詝造形美にこだわりたい詝とおっしゃっていましたが、他にはどんなところを大事にされましたか?

大友:3Dや4Dなど映画が進化したところで詝臭い詝だけは映画館で体感できない。でもこの映画の場合、臭って来るような映像を作っていかなければ、伝わらないことが多いと思ったんですね。沢村は自分の家族を守るために一直線に行動していく。でもひとつひとつの凄惨な事件現場に触れるたびに、大切な家族が同じ目にあわされているのではないかと心が千々に乱れていく。そんな沢村の動揺を少しでもお客さんに共有してもらいたい。例えば詝母の痛みを知りましょうの刑詝ではVFX処理の段階で蠅の数にこだわってみました(笑)。リサーチのための事前試写の結果を見ると、蠅がどのぐらい飛んでいるかで観客のリアクションが変わるんですよね。特にこういう作品は、事件件場に相当なリアリティを出しておかないとダメだと思っていて。


―蠅が飛んでいるシーンもリアルでしたが、連続猟奇殺人鬼・カエル男役の妻夫木 聡さんがガラっと雰囲気を変えていて詝カエル男詝にしか見えませんでした。妻夫木さんとの現場はいかがでしたか?

小栗:妻夫木くんは役作りにおいていろんなアプローチをされる方なので、今回どんな感じで現場に入られるのかなと思っていたんですけど、すごくフラットな状態でいらっしゃって。ブッキーがそういう風にいてくれるなら僕もフラットにいようと。新潟ではほぼ毎日ふたりで飲んでました。

大友:楽しそうに飲んでたよね。陰惨なシーンの撮影のあとなのに(笑)。

小栗:新潟と大阪での撮影は沢村がカエル男に追いつめられていく前だったので、まだ一緒にお酒を飲んでいても大丈夫かなと思って飲んでましたね(笑)。そのあとは東京に戻ってカエル男にどんどん追いつめられていくキツいシーンの撮影でしたけど。


―小栗さんは沢村に対してどんな思いで演じられたのでしょうか?

小栗:脚本を読んだ時に、沢村に対してある種の憧れみたいなものを感じたんです。というのも僕の父親も沢村のような仕事人間であまり家庭を顧みない人だったというか。同じ男としてどこか父親や沢村のような男性に憧れてしまうところがあるんです。どちらも仕事一筋で真面目に一生懸命生きてきただけなんですよね。変な話、イクメンが増えてる現代においては沢村のような仕事人間は少なくなくなってきてると思うんです。もちろんイクメンも素晴らしいことだと思いますが、仕事に邁進している沢村を見て単純にカッコいいなと憧れます。だって僕が彼と同じ状況になってもまず犯人まで辿り着けないだろうし、辿り着いたとしてもいざ犯人と対面した時に戦う勇気が出るかどうかはわからないですから。


大友:『ダイ・ハード』シリーズの主人公や昔クリント・イーストウッドがよく演じていた役みたいに、自分の大事なものは自分で守るという主人公って最近あまり見ないですよね。沢村はたったひとりで愛する家族のために体も心もボロボロにしながらカエル男に真っすぐ向かっていくけど、今はそういう主人公が少なくなってるんじゃないかな。ヒーロー像を作るのが難しい今の世の中で、こういう生き方もあるよね、と。絶望に追い詰められていく中で沢村は本当に大切なものに気づいていく。そこがこの映画の魅力かもしれませんね。イクメンが増えれば増えるほど、フィクションである映画の世界では、別の人物像を追い求めたくもなります。高倉 健さんのような孤高の存在で、背中で語るような、そういうカッコいい男性が僕ら昭和世代は好きなんですよね。だから自分が撮る作品でも、背中で語れる役者が見たくなる。



―『るろうに剣心』や『秘密 THE TOP SECRET』など大友監督が撮る男性の役者さん達はみなさんすごくカッコいい表情を引き出されていた印象があります。本作では小栗さんのどんな面を引き出そうと思われましたか?

大友:さっきも言いましたが、僕は詝骨がぶっとい人間詝が好きなんですけど、それはルックスだけの話ではなくて内面やどういう考え方を持ってるかということが重要な要素だと思っています。俳優と言えども、他の多くの人たちが従事している仕事と同じようにひとつの詝仕事詝ですからね。それに対して、どういう向き合い方をするのか。たとえば、ひとつひとつの役を演じる時に生まれる葛藤や演じた結果に対してどういう風に責任を持とうとしているのか。自分が演じた役が、今の世の中とどう結びついているのかを実直に考えているような、そんな役者の一面にどこか魅力を感じるというか。


小栗くんぐらいのキャリアがあって第一線で活躍している俳優は特に、演じた結果や役を演じることによって何を引き受けていくのかを考えると思うんですよね。そういうことを着実に身につけていった結果、自然と骨太になっていく。沢村はものすごく追い込まれるので、その時の反骨心や絶望しかけた時にどう立ち上がっていくのかというのは演じている小栗くんの本質も少なからず反映すると思うんです。なので、今回はクライマックスに向けて、セットの作りやプロダクション全体のスケジュールなども含め、いかに小栗くんを追い込むか、彼が自分自身を自らどう追い込んでいくのか、それを下支えする環境をどう作り上げていくのかということだけに注力したし、そういった部分をストイックに撮っていけば彼の内側にある骨太さが浮き彫りになってくるんじゃないかなと。そこを意識して撮っていましたね。


―自身の骨太さが撮影を通して浮き彫りになっていくのは感じられましたか?

小栗:演じている最中はあまり感じなかったんですけど、完成を観た時に後半の沢村の表情を観て詝俺ってこんな顔するんだな詝と。自分でも見たことのない表情を見れたのは、僕の役者人生において詝財産になった詝と感じました。追い込まれた分すごく良い経験ができましたし、本作が仕事を頑張っているお父さん達の応援歌になったらいいなと思ってます。




ミュージアム
監督/大友啓史
出演/小栗 旬尾野真千子/妻夫木 聡ほか
11月12日(土)より全国公開