オールナイトニッポン 小栗旬の起用が菅田将暉への道筋つくった?

オールナイトニッポン 小栗旬の起用が菅田将暉への道筋つくった? (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

 あの芸人、あの歌手、あの俳優……。今をときめくスターたち。手の届かない存在のはずが、深夜になるとすぐそばに。ラジオ番組・オールナイトニッポンの人気をけん引してきたラジオパーソナリティーたち。その起用の裏側を制作陣に聞いた。

 数々のスターも誕生した。1974年に放送時間を前半と後半の2部制にしてからは、2部に比較的知名度の低い人を起用し、人気が出ると1部に昇格させるという、まさにスターの登竜門的な存在になっていった。

 原石を見いだすポイントは何だったのか。制作チーフとして多くのパーソナリティーを起用した亀渕昭信が重視したのは、話のうまさよりも、時代を読む力と「ギャップ」。そのど真ん中が、中島みゆきだった。

「当時毎日放送で放送していたみゆきさんの番組を聴いたんだけど、ラジオとステージとのギャップをつくっていてすごく素敵だった。事務所を飛ばして本人の許可を取っちゃったんで、後でとっても怒られたけどね」

 と、亀渕は明かす。

 一方、90年代以降のパーソナリティーの起用に多く携わった現編成部長の節丸雅矛は、起用の基準は「何かを伝えたい意思があるかどうかだった」と語る。亀渕と同じく、仮に話し方がたどたどしくても、リスナーに好きになってもらえる要素があるかを重要視した。

 この基準で起用したのが、俳優の小栗旬だ。それまでパーソナリティーは舞台俳優こそいても、映画やドラマをメーンに活躍する俳優の起用は珍しかった。オファーした時、本人からも「なぜ僕なんですか?」と不思議がられたという。

「小栗くんを見た時『監督をやりそうだな』と思ったんです。セリフを読んでいるだけじゃ足りないんじゃないか、もっと自分の言葉で話したいんじゃないか、と」(節丸)

 それまでミュージシャンや芸人の起用が多かったのは、ステージ上で直接客の反応を受け止め、それに応じて話し方を変えることができるからだ。ただ近年、映画やテレビで活躍する俳優が、舞台に挑戦し、客前で話す感覚のある人も増えてきた。


 小栗が起用された2007年、当時は蜷川幸雄演出舞台の常連になり始めていた頃だった。節丸の読みは当たり、小栗の番組は女性のみならず、男性リスナーからも支持された。この放送が、今年4月から初のレギュラーラジオ放送で話題となった菅田将暉起用の道筋をつくった、とも言える。

 番組からは数々の伝説も生まれている。鴻上尚史がリスナー200人と民族舞踊のジェンカを踊ったのもその一つだ。このイベントは数回開催され、あるリスナーの東大受験に密着し、その合格発表の場でこのリスナーを先頭に踊ったことも。鴻上によると、このリスナーとは以降結婚式に招かれるなど30年以上も交流が続いている。

 伝説は番組の枠にとどまらず、「都市伝説」にまで発展したものも。笑福亭鶴光タモリの番組で取り上げられたことで話題になった「なんちゃっておじさん」だ。両手を頭の上につけ「なーんちゃって」というポーズを取るというこのおじさん、真偽のほどは分からないが、番組には大量の目撃情報が寄せられた。

「噂がホンマになっていく。その連帯感が、深夜放送の面白さ」

 と鶴光は言う。

 東京だけで深夜帯のシェア9割を誇っていた鶴光の番組。強大な影響力があったからこそ、それが裏目に出てしまったことも。エロトークが各地のPTAの反感を買い、「放送を中止せよ」とスポンサー商品の不買運動にまで発展した。これはさすがにまずいと、1カ月間エロを封印。鶴光が詩や伝記を朗読する「模範的」な放送で、事なきを得たという。

 これからも番組から生み出されるであろう、スターや伝説が楽しみだ。(文中敬称略)(編集部・市岡ひかり)

AERA 2017年10月30日号