『銀魂2』のワーナー・ブラザース映画エグゼクティブプロデューサーの小岩井宏悦氏より。。

小岩井氏「この作品で忘れちゃいけないのが、何といっても小栗旬さんの存在。みんな言っていますが、小栗さん自身がイコール『銀さん』なんですよ。男気があって後輩の面倒をみて、いい具合に力が抜けていて(笑)。ウソをつかずに、たまに熱くて。彼が主演だからこれだけ主演級の役者が集まる作品を作ることができた」



ギャグ・男気・友情…実写『銀魂2』、ヒットの秘訣
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO36066230T01C18A0000000?channel=DF030720184248
2018/10/22


主人公の坂田銀時小栗旬、中央)はぐうたらな生活を送っているが、かつては伝説の侍。仲間の志村新八(菅田将暉、左)、神楽(橋本環奈、右)とともに江戸で起こるもめ事に首を突っ込む
空知英秋さん作の人気漫画『銀魂』の実写映画第2弾『銀魂2 掟は破るためにこそある』がヒットしている。2018年8月に公開され、興行収入は10月1日時点で35億円を超えた。昨年公開で17年度の邦画実写興行収入ランキング首位を記録した第1作(38億4000万円、興行通信社調べ)に迫る勢いだ。
幕末の江戸に「天人」と呼ばれる宇宙人と地球人がともに暮らしているという設定のSF時代劇。依頼ごとなら何でも引き受ける「万事屋」を営む伝説の侍、坂田銀時小栗旬)が幕府転覆のたくらみから江戸を守るべく仲間とともに奮闘する。熱心なファンが多いコミックを実写化するまでの経緯や製作の裏話、さらに邦画の未来などをワーナー・ブラザース映画エグゼクティブプロデューサーの小岩井宏悦氏に聞いた。

◇  ◇  ◇
■原作へのリスペクトと実写独自の付加価値
――原作はシリーズの単行本発行部数が5500万部を超える人気漫画です。「売れている原作」を実写化するには様々な困難があったかと思います。


小岩井宏悦氏  ワーナー・ブラザース映画エグゼクティブプロデューサー。 1989年フジテレビ入社。『ラブジェネレーション』『パーフェクトラブ』などのドラマを担当。2007年4月、ワーナー・ブラザースに転職。『るろうに剣心』『銀魂』シリーズなどの映画製作に携わる

「確かに売れているコミックを実写化することは両刃の剣です。認知度も高いし、潜在的なお客さんもいる。でも、それだけに熱心なファンが大勢いる。そこに手を付けることで生じる『リスク』はいつも最も神経を使うところです。私の好きなスティーブ・ジョブズ(米アップル創業者)の言葉に『客は自分のほしいものを知らない』という言葉があるのですが、お客さんに『このコミックをどんな風に実写化したら見たい?』と聞いても答えは出てきません。我々が汗をかいて手探りで提示していくしかない」
「これまで何作も人気コミックを実写化してきて学んだのは、原作キャラクターの単なる再現やストーリーをなぞるだけにとどまらない、原作のスピリットに対する圧倒的なリスペクトが絶対的に必要条件だということです。そして『銀魂』のように当てるためにはそこに実写映画化する意味、実写でなければ描けない何かという独自の付加価値が十分条件になってきます」
――具体的にはどんなことでしょうか。
「例えば、ぎりぎりのパロディーは原作にもありますが、実写映画には福田雄一監督のオリジナルのパロディーが随所に出てきて、感想を見るとお客さんが喜んでいるのはそこだったりするんですよね。きちんと原作をリスペクトした上で、その魅力をさらに倍増させるエッセンスであれば、ファンはちゃんと納得して受け入れてくれる。そういう意味では、実写映画の作り手として大胆に冒険する部分も必要だと感じています」


歴史上の人物を連想させるキャラクターが多く登場する。特殊警察、真選組近藤勲中村勘九郎、前列中央)、土方十四郎柳楽優弥、同左)、沖田総悟吉沢亮、同右)


銀時のかつての仲間、桂小太郎(岡田将生)。謎の宇宙生物、エリザベス(右)は桂の右腕として働く



――「売れている原作」の中から実写化する基準はあるのでしょうか。
「なによりも重要なのが、そのコミックを実写化する意味があるかということ。顕著な例は、その役をできる役者が現れたとか、テクノロジーが出てきたとかです。あとは2時間できちんとお客さんがカタルシスを持って帰れるストーリーを作れるのかどうか」
■実写化の目安、少年漫画は各巻50万部以上

原作は「週刊少年ジャンプ」(集英社発行)で03年から18年9月まで連載、単行本発行部数は5500万部を超える(連載終了を予告したジャンプ38号の見開きページ) (C)空知英秋集英社=共同
「売れているといってもどのくらいの潜在的な客さんを持っているかは、ひとつの目安にはしています。勝手に少年漫画では各巻50万部以上、少女漫画では各巻30万部以上の売り上げ部数を基準にしています。単純計算で原作に50万人以上のファンが付いているということは、実写映画化の際に原作ファンから6億円から7億円の興行収入が見込める。そこに役者のファンやアクション映画のファンの数字を積み上げていくと十数億円が見込めるというわけです。ただ、これはおまじないみたいなもので、最近はコミックの発行部数と映画興行収入の数字が以前ほど比例していないというデータも出ています」
――『銀魂2』では前作を踏まえて、続編製作の苦労などはありましたか。

福田雄一監督。小岩井氏は「監督を筆頭にキャスト、スタッフ全員が面白がって銀魂を作っていた」と話す
「クリエーティブな部分は福田監督がすべてですし、ご自分でシナリオも書かれるのでとにかくシナリオを待つだけでよかったです。ただ今回、最初はギャグエピソードをメインでやるつもりだったのに、突然、監督が『やっぱりもっとお客さんを喜ばせるためには、前作にあった男気とか感動とかアクションとかもないとダメなんじゃない?』と言い始めて、クランクインの2、3カ月前くらいにシナリオを書き上げてきたときはビックリしましたね(笑)。普通はそんな大きな方向転換は相当苦労するものですが、福田監督は見事にギャグと男気とアクションと友情がすべて入ったシナリオを書き上げてきました。結果をみてもそうですが、あそこでの監督の判断は正しかったと思います」

――「売れている原作」の中から実写化する基準はあるのでしょうか。
「なによりも重要なのが、そのコミックを実写化する意味があるかということ。顕著な例は、その役をできる役者が現れたとか、テクノロジーが出てきたとかです。あとは2時間できちんとお客さんがカタルシスを持って帰れるストーリーを作れるのかどうか」
■実写化の目安、少年漫画は各巻50万部以上


原作は「週刊少年ジャンプ」(集英社発行)で03年から18年9月まで連載、単行本発行部数は5500万部を超える(連載終了を予告したジャンプ38号の見開きページ) (C)空知英秋集英社=共同

「売れているといってもどのくらいの潜在的な客さんを持っているかは、ひとつの目安にはしています。勝手に少年漫画では各巻50万部以上、少女漫画では各巻30万部以上の売り上げ部数を基準にしています。単純計算で原作に50万人以上のファンが付いているということは、実写映画化の際に原作ファンから6億円から7億円の興行収入が見込める。そこに役者のファンやアクション映画のファンの数字を積み上げていくと十数億円が見込めるというわけです。ただ、これはおまじないみたいなもので、最近はコミックの発行部数と映画興行収入の数字が以前ほど比例していないというデータも出ています」
――『銀魂2』では前作を踏まえて、続編製作の苦労などはありましたか。


福田雄一監督。小岩井氏は「監督を筆頭にキャスト、スタッフ全員が面白がって銀魂を作っていた」と話す

「クリエーティブな部分は福田監督がすべてですし、ご自分でシナリオも書かれるのでとにかくシナリオを待つだけでよかったです。ただ今回、最初はギャグエピソードをメインでやるつもりだったのに、突然、監督が『やっぱりもっとお客さんを喜ばせるためには、前作にあった男気とか感動とかアクションとかもないとダメなんじゃない?』と言い始めて、クランクインの2、3カ月前くらいにシナリオを書き上げてきたときはビックリしましたね(笑)。普通はそんな大きな方向転換は相当苦労するものですが、福田監督は見事にギャグと男気とアクションと友情がすべて入ったシナリオを書き上げてきました。結果をみてもそうですが、あそこでの監督の判断は正しかったと思います」


「小栗さん自身がイコール銀さんだった」(小岩井氏)という

「この作品で忘れちゃいけないのが、何といっても小栗旬さんの存在。みんな言っていますが、小栗さん自身がイコール『銀さん』なんですよ。男気があって後輩の面倒をみて、いい具合に力が抜けていて(笑)。ウソをつかずに、たまに熱くて。彼が主演だからこれだけ主演級の役者が集まる作品を作ることができた」
■ネット時代、多様化する「見たい映画」
――最近はネットを通じて様々な情報を得たり、情報交換ができるようになったりしていることから「監督がこの人だから」「脚本がこの人だから」などと見る側の選択肢もどんどん変化しているようです。
「確かに試写をやったデータでも、原作ファンやキャストファンと同じくらい福田監督のファンが多くて(笑)。福田監督作品だから見に来たというのは監督が他の映画やテレビドラマ、舞台やミュージカルでもお客さんの期待に応え続けてきたからだと思います」
――これからの日本の映画界はどう変わっていくと思われますか。
「従来のテントポール戦略の見直しを迫られていると感じています。テントポールとは、テントの支柱のように目立つハリウッドの大作映画のことです。これまでは売れている少年コミックを破格の予算をかけて実写化して、CGやアクションもふんだんに盛り込む。夏休み映画やゴールデンウイーク映画として公開して、1作目が成功したらシリーズ化するということを最優先にしてきました。ただ、他社さんを含めてうまくいっているのは『るろうに剣心』と『銀魂』の2シリーズしかなく、打率が悪くなっています。少女コミック原作の実写化も同様に決まったパイを多くの作品が取り合うようになって、一切れがどんどん小さくなっている。もちろん今まで通り『強いコミック原作を実写化する』というやり方もしつつ、別の方法も模索しないとダメだなと……」



カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督。低予算ながらSNS(交流サイト)などを通じた口コミで大ヒットした

「ただ、別の方法というのは、すべてのイノベーションがそうであるように最初から頭で考えてできるわけではなく、突然起こった予期せぬ成功とか失敗とかにそのタネを見つけていくしかないと。今年でいうと『カメラを止めるな!』から何を見つけられるか、かもしれません。売れている原作に実績のある監督、人気のあるキャストと足し算で積み上げていくこれまでの『マーケティング戦略』の企画の立て方から、シナリオという最終成果物の青図から逆算していく企画を試してみたい気もします」
(ライター 近藤明子)

(C)空知英秋集英社 (C)2018 映画「銀魂2」製作委員会

[PlusParavi(プラスパラビ) 2018年9月29日、30日付記事を再構成]