菅野ようこさんインタビュー。。



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マクロスF』など1000曲以上を作曲 -音楽家 菅野よう子が語る作曲作法
1 小栗旬本人からのリクエストで『シュアリー・サムデイ』の映画音楽を担当
2010/07/29

人気俳優の小栗旬が初監督を務めた話題の映画『シュアリー・サムデイ』が現在公開されている。この作品の音楽監督を務めたのは、ゲーム、アニメ、テレビドラマ、映画など、ざまざまなコンテンツの音楽を手掛けている菅野よう子。ポップ マエストロはどのように、この作品の音楽を作り上げたのだろうか?

菅野よう子

作曲家/編曲家/プロデューサーとして活躍。SMAP今井美樹坂本真綾小泉今日子Crystal Kay、T.M Revolution、湯川潮音元ちとせ、など、多くのアーティストへ楽曲を提供。アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPREX』、『マクロスF』、映画『下妻物語』、『ハチミツとクローバー』、ゲーム『三國志』シリーズ、『信長の野望』シリーズなど、様々な作品にジャンルを問わず楽曲を提供。1000曲以上ものCM曲を手掛ける。1998年にはサントリービタミンウォーターのCM曲で、三木鶏郎広告音楽賞 全曲コラボレーションで映画『シュアリー・サムデイ』サントラを制作

――菅野さんが『シュアリー・サムデイ』の音楽を担当した経緯を教えてください 。

菅野よう子(以下、菅野)「私が楽曲担当したアニメ『カウボーイビバップ』の音楽を小栗さんが大好きとのことで、"初監督作品の映画音楽を是非、お願いしたい"というオファーが直接ありました。とても驚いたのですが、後で聞いたら小栗さんは私のCDを全部持っていたそうです

――今回、トータス松本さんの『SURELY SOMEDAY』以外の曲は全て菅野さんが書かれていますが、全曲の演奏は、菅野さんと他のアーティストとのコラボレーション(※)となっています。作曲の時点で、協演アーティストのイメージは出来ていたのですか?

※このサントラで菅野よう子と協演したアーティストは、 the telephones石毛輝THE BAWDIESのROY、曽我部恵一近藤房之助手嶌葵、そして映画出演者である、小出恵介綾野剛横田栄司など。

菅野半分くらいの曲は『この方に歌ってもらおう』とイメージして書いていますね。人選も全て担当させていただきました

――曽我部恵一さんがボーカルを担当した『バンドやろうぜ』は、まるで曽我部恵一バンドの曲のようでした

菅野「『バンドやろうぜ』はアテ書きのように思われるのですが、実は後から曽我部さんがボーカルに決まった曲なのです

――それにしても、ご本人のイメージにぴったりの曲ですよね。ところで、当初からサントラの全体のイメージなどはあったのですか?

菅野「なかったですね。小栗さんも初監督なので、どういう画を撮るのか、本人もスタッフにもわからない。どんな色合いかスピード感かもわからない状態で、迷いながら探りながら皆でスタートしたという感じです」
言葉にならない違いを「音」で探すのが好き

――作曲する側としては、画が想像つかないというのは、かなり大変だったのではないですか?

菅野「ただ、ヒントはありました。小栗さんとの打ち合わせで、"導入のシーンに『カウボーイビバップ』の『WALTZ for ZIZI』のような曲が欲しい"とリクエストされたんです
『WALTZ for ZIZI』は、とてもけだるい曲なのですが、そういう曲が欲しいというイメージを聞いて、オープニングは派手に行くというイメージがあったので、珍しい感性の人だなと思いました。

あと"京平のテーマは『ラデツキー行進曲』がいい"ともいわれて……。

20代の若者が行進曲は普通持ってこない。小栗さんのセンスは個性的で、観る方の立場に立っているという部分は、サントラの大きなヒントになりました」

――それでも、手探りの苦労はあったのではないですか?

菅野「私は作業は手探りの方が好きなんですね。監督もわからないから、曲を画に当ててみてはじめて、『なんかちょっと違う』となる。そんなときに、その言葉で言えない"違いの綾"を探りながら、こういうことが言いたかったんだと音で探していくのが好きなんです。翻訳に近い作業だと思います

――では、事前にガチガチに曲のイメージを固められて、『こんな曲を書いてください』というオーダーよりも、そういう手探りのほうが、菅野さんにとって良いのでしょうか? 菅野さんのように、たくさんのお仕事をされていると、依頼の時点で、ある程度、ゴールの読める曲作りというのもあると思うのですが。

菅野「どちらが良いということはないのですが、感じていることの『ちょっとの違い』を埋めていくやり取りという面白がれるポイントがあるのが好きなんですね。先の読めない作品に関わることって、偉くなってくると少なくなるんですよ。偉くなると、絶対にはずさないことを期待されるし、デモテープでこれで行きますと関係各位全て根回しされてから作る事が多いんです。『菅野さんなら、きっとこんな曲を書いてくれるだろう』と夢を持たれることも多いですし(笑)。
今回の映画は若者たちが主演の青春映画でバンドが出てくる話ですが、今風のバンド曲は求められていなかったし、手探りでゴールが読めない現場は楽しく新鮮でしたね

――完成した映画を観て、ご自身の楽曲と合わせて、どんな感想をお持ちですか?

菅野「これだけ、ぐちゃぐちゃにやって、画と音がしっかりと拮抗しているので、良かったと思います。曲と映像が一緒に暴れてる感じ。今回は脚本を読ませていただいた時点で、脚本のグルーヴ感がすばらしかったにぎやかな言葉の応酬のなかに、色々な音楽が短時間に出入りしたら雰囲気出るだろうなと思って、そういうテンションは実現できたと思います

――この作品では、バンドや音楽もテーマのひとつです。菅野さんもバンド出身者という事で、何か感じる部分はありましたか?

菅野「そうですね。バンドがテーマの作品は今回が初めてでした。バンドの生き様、人間模様とか好きなので、今回はそれを思い出しながら、青臭さを音にしていた部分もありますね

――最後に、このサントラを手掛けていかがでしたか?

菅野楽しく作る事ができました。映画を観ないでこのサントラを聴いたら、どんな映画か、まったくわからないと思いますけど(笑)。共演したアーティストの方々とは、またご縁があったらやりたいですアーティストの方だけでなく、俳優さんも、皆さん演技も歌も本当に上手だったので、また一緒にお仕事したいです

映画「シュアリー・サムデイ」は全国ロードショー公開中
インタビュー撮影:糠野伸