小栗旬インタビュー 前編
映画「ミュージアム」小栗旬インタビュー前編「こんなに追い詰められたことはない」
小栗旬「こんなに追い詰められたことはない」【映画「ミュージアム」インタビュー前編】
2016/10/28 14:00
公開前から話題となっているスリラーエンターテイメント映画『ミュージアム』(11月12日(土)公開)。
「あの過激な原作、映画にできるのか?」「ヤバすぎる」などの声がSNSで拡散される中、主演の小栗旬さんは、それらとどう向き合い、克服したのでしょうか。今回はスペシャルインタビューの前編をお届けします!
Woman Insight編集部(以下、WI) 原作コミックのインパクトが強烈なことから、映画への期待がどんどん膨らんでいます。小栗さんご自身の原作への感想、そして映画への期待を教えてください。
小栗旬(以下、小栗) 原作を読んだときは……、正直いい気分ではありませんでした。僕が演じた沢村久志という役は、連続猟奇殺人事件とその犯人・カエル男を追う刑事です。そして、最後のターゲットが自分の妻子だと判明し、犯人を追ううちに、身も心も追い詰められていきます。映画にしたとき、こういう難解で恐い題材を観たい人は果たして多いだろうか、と疑問に思いました。キラキラしたさわやかな映画や、明るくて観やすい映画が流行っている今だけど、その一方で、こういう題材は、僕自身は好きだし観てみたい。観た人は、「なんだこれ?」でもいいし、「観なければよかった」でもいいし、何かしらの感想をもってくれたら、それはそれで意味があるのかなと。
WI で、小栗さんがこの映画を観終わっての感想は……。
小栗 後味は悪かったかな(笑)。でも、それでいいと思うんです。たとえば僕なら、自分の子供をひとりで歩かせたくないな、とか、自分だったらあのときどうしただろう、と何かを考えるきっかけをくれた。この映画の家族にとってはものすごいトラウマになる事件だったけれど、ここまでではなくても、現実の世界だって十分に大変なことはあるわけだし……。
WI たとえば現実の世界でいうと……?
小栗 結婚して子供ができると、多くの父親はその現実に自分の身を置くことの難しさを感じるんです。それで、仕事に逃げているところがある。僕も、そうです。今回演じた沢村も、本当は向き合わなくちゃいけない家族との時間を、妻の遥(尾野真千子)に任せてしまっている。仕事という唯一の得意分野に没頭することで、現実逃避しているんです。そこは思わず「わかる、わかる!」ってシンパシーを感じました。
小栗 でもね、そういう沢村みたいな生き方、僕は案外好きなんです。うちの親父なんかは家庭より仕事優先だったし、僕らより上の世代ではよくあったこと。今ではこういう生き方はあまり許されないけれど、これだけ仕事に命を賭けていて、意気込みがある沢村という男のこと、僕は嫌いになれないんです。
自分自身を監禁状態にまで追い詰めた
WI これまでも刑事役や父親役はありましたが、『ミュージアム』ならではの挑戦はありましたか?
小栗 まず、これだけ肉体的にも精神的にも追い詰められながらつくったものはありませんでした。出来上がってみて、初めて見る自分の表情もたくさんあったし。俺、こんな顔できるんだって。つくった表情ではなく、狂気をもって本当に人を殺してしまいそうなほど追い詰められた沢村が出せたと思います。
小栗 役づくりってとても難しくて、僕はあえて誰とも会わないようにして自分を追い込みます。特に今回は、沢村が監禁されてからのシーン撮影期間は、僕自身も現場とホテルだけの生活にして、監禁同様の状況に置いてもらいました。このいちばん緊迫したシーンを撮っていたのが、ちょうどクリスマスのころで、この緊迫感の中、街に出たくないし、家族と幸せに過ごすのも無理。誰にも会わず追い詰められた状況をつくったことで、沢村に近づくことができて、枯れていく感じをリアルに味わえました。
WI 役づくりといえば、カエル男も完璧につくりあげられていましたね。
小栗 あれは、衣装デザイナーの澤田石(和寛)くんが、田舎の田んぼにカエルを探しに行き、それを元に絵を描き、マスクをつくり上げました。それを演じているのは妻夫木(聡)くんですが、マスクをしていても怒っているのか笑っているのか、表情がわかる不気味さがあるんです。
そんなカエル男と沢村は、追われる側と追う側でありながら、実は表裏一体のところがあって、だからこそ、沢村はあんなにカエル男に固執していたのかもしれません。ターゲットに対し「私刑(=個人的に刑罰を加えること)」を執行し続けたカエル男に対して、沢村も死刑ならぬ「私刑」を与えようと躍起になる。沢村自身も殺人犯になる可能性もはらみながら、何が正しいのかわからなくなっていく……。それがこのストーリーの面白いところでもあります。
次回の後編では、小栗さんご自身の父親ぶりや家族観などをお伺いします。(南 ゆかり)